プロジェクト概要

研究の背景

ブータンにおける1990年以降の地震活動

ブータンヒマラヤは,パキスタン,ネパールなどとともにユーラシアプレートとインド亜大陸(インドプレート)の衝突帯に位置しており,これにより,インド・ユーラシア両プレートの衝突帯は世界有数の地震帯となっている。

インド・ユーラシア衝突帯では,中央部のネパールで2015年4月25日にMw7.8の地震が発生し8,800人以上の死者が出たこと,また西部のパキスタンでは,2005年にMw7.6の地震が発生し,9万人に迫る死者が出たことなど,地震災害の記憶が新しい。これに対し,東部のブータンでは,南隣のインド・アッサム地方で1897年に発生したM8.3のシロン地震等,近隣の大地震の記載はあっても,20世紀中にはブータン国内を震央とするM7を超える地震は発生していないとされている。ところが,2009年9月に,ブータン東部を震源とするM6.1の直下型地震が発生し,1907年のブータン王国成立以降,初めての死者を伴う地震災害が発生した。これに加え,2011年9月には,西隣のインド・シッキム州でM6.9の地震が発生したことにより,ブータン西部のパロ県を中心に,死者こそ出なかったものの,建築物に大きな被害が発生するなど,ブータンヒマラヤ周辺での地震活動の活発化が予想される状況となっている。

ブータンの多様な組積造建築にみられる様々な材料・施工法

ブータン王国の伝統建築は地域によって構法が異なり、西部では版築造が大部分を占めていますが、東部では土モルタルで固められた石積みでつくられます。版築造の民家は、基礎は割石積みで、その上に版築壁が立ち上がります。2階建あるいは3階建が多く、1階は通常は家畜小屋や倉庫として使用されるため、開口部が極端に少ない閉鎖的空間となっています。2階あるいは3階が居住空間で、一部は木造と土壁で建てられ、全体としては版築と木造の混構造となります。版築壁の上には木造小屋組があり、伝統構法では屋根は石置き長板葺きです。版築壁の材料となる土は、現場近傍の採土場所からセメント袋等に入れて運ばれ、数人の突き手が木製の型枠内に入り、土を突き固めていきます。1つの層を突き固めた後に次層のための新たな土が投入され、同様の作業が繰り返されます。1つのブロックが完成したら時間を置かずに型枠を外し、次の場所へと型枠を移動します。

組積造建築の耐震性評価と減災技術の確率が急務

ブータン王国では、首都をはじめとする一部の市街地で鉄筋コンクリート建築や煉瓦建築が見られますが、それ以外の地域では民家と公共施設のほとんどが版築あるいは割り石積みで建てられています。こういった伝統建築は地震に弱く、過去にはブータン東部(2009年9月21日M6.1)とインド-ネパール国境地域(2011年9月18日M6.9)で発生した地震により、多くの建物が倒壊・半壊しました。そのため、耐震性能向上のための施策が不可欠との認識が官民に広がっていますが、ブータンの伝統建築に適した耐震化指針は作成されておらず、インド等の海外の既存の指針を流用しているのが現状です。ブータンの地震災害軽減のためには、工学的実験と構造解析に基づく実効性のある耐震化指針の作成とその普及を軸とし、地震観測・調査によって得られる知見やブータンの社会的・経済的諸事情を踏まえた総合的アプローチが有効であり、それに対する科学技術支援が不可欠です。

研究の目的

研究体制